むむちゃんが、
「昔の言葉の辞書ってあるの?」
あるよ。
「貸して。」
どうぞ。
「ママ、辞書のひきかたって今の言葉と一緒だよね。「かもねむ」って載ってないね」
かもねむ?
「「ひとりかもねむ」って百人一首にあるでしょ。どうい意味かなって思って」
あるね、何首目だっけ?
「ひとつじゃないんだよ、えっとね、「あしびきの」、と、「きりぎりす」と。」
あしびきのやまどりの尾のしだり尾の 長々し夜をひとりかもねむ (柿本人麻呂)
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかもねむ (藤原良経)
シンプルには「ひとりで寝る」という意味だけど、辞書引きながらの場合だから
分解しなくっちゃ、はてさてどう分解するんだっけ・・・。
こっそり先に訳文を見ちゃってから分解にかかった。
辞書的には、「か」「も」が、係助詞で別々でもいいけど、
「かも」あわせての係助詞で、推量、詠嘆でひろってもいいかな。
「ね」はむむちゃんに和歌を見せつつ「寝」(ね)であることを、説明。
「む」は推量の助動詞、で「~かなぁ・・・。」
詠嘆って何、とか、推量って何、とか、冷や汗ものの質問に、
むむちゃんのわかる表現を選びながら答えて、
「じゃぁ、こんな感じ?「あぁあ、ひとりで寝るのかなぁ・・・。」」
うんうんうん、そんな感じ。
むむちゃんの持ってる百人一首の本を見てみて。
「あ、ほんとだ~!あってた!」
教員免許は使わないとただのペーパードライバーだ・・・。と、しみじみと実感。
そして、ひとりかもねむ、が2首あることに気づき、どういう意味だろう、と関心を持つ小学生に、たじたじ。
それ以上の深追いがないことに、胸をなで下ろした。
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その翌日、むむちゃんはひたすら漢字のノートに向かっていた。
「ママ、あのねやばいよ、今日中に75ページまで終わらせるんだって。」
そうなの?今何ページ?
「えっとね、26ページ」
え・・・。(絶句)
それって、前から宿題になってたの?
「う~ん、宿題っていうか、ドリルの終わったところにあわせてノートも追いついていくようにっては言われてたけど・・・」
それで、なんでいきなり75ページなの。
「えっと、みんなの足並みをそろえようってことになって、終わってる漢字のところが、ノートだと75ページだったから」
で、むむちゃんはどうしてそんなにたまっちゃったの?
「一日1ページくらしかやってなかったから、、、かなぁ」
みんな終わってるの?
「終わってる人と、終わってない人がいるよ。」
そっか、でも75ページまで、って今日中は無理な気がするけど・・・。
「むむもそう思う」
夕飯時には、和やかにおしゃべりしながら夕飯を食べ、
お風呂にもワイワイ言いながら入り、さすがに「先にあがるね」と先にあがり、
ノートに向かってはいるものの、切迫感のオーラは無く、淡々としている。
ぷうちゃんは、むむちゃんにお風呂上がりのデザートを持って行ってあげていた。
邪魔にならない程度にお隣の部屋に離れて、DVDを見たり、
アナと雪の女王の何やらをタブレットで観ていた。
私は静かにマーマレード作り。
いつもよりも少しゆっくり目の時間に「そろそろ寝ようか」と声をかけた。
あとどのくらい?
「う~ん、あと30ページくらい」
30ページか、朝起きてやっても終わらないね。他にも終わってない人たくさんいるよ、きっと。
「そんなことないよ、(むむちゃんの仲の良いお友達の名前の羅列)はもう終わってるもん」
そっか。とりあえず、今週中に終わればいいことにしようか。
「そうだね、ご飯食べなきゃならないし、お風呂も入らなきゃならないし、寝なきゃならないしね」
朝早く起こす?
「起きるからいい。」
そして、わずかの間に眠りに落ちた。
私だったら、涙と絶望感にさいなまれながら、追い込まれた状況に打ちひしがれつつ、
食べるのも、お風呂も、寝るのも、何もかもをも拒んで、ノートにしがみついてるだろうな・・・。
この、淡々とした様はいったい・・・。
翌朝も、あまりいつもと変わらぬ時間に起きてきて、10分程度をノートに費やした。
翌日夕方に学校から電話がきて、終わっていない何人かと共に残ってやっていきますので、
と担任の先生。
下校時間いっぱいになり、結局終わらないままではあったものの、5時前に帰宅した。
お残りたいへんだったね。
「うん、でも残った人けっこういたよ。」
なんにんぐらいいたの?
「8人」
クラスの4分の1か。あとどのくらい残ってるの?
「3ページだから、終わるよ」
よかったね、終わらせられそうで。
と言いつつ、ノートに向かう時間になかなか終わりがやってこない。
まだ終わらなそう?
「うん、あと12ページあった」
・・・終わらないね、今日の夜だけじゃ。できるとこまでがんばって。
今日も少し遅めに「そろそろ寝ようか」と声をかけた。
あと何ページ?
「えっとね、あと9ページ」
学校で朝提出するの?
「朝のときもあれば、終わりの時間のときもあるよ」
じゃ、休み時間にやれば、終わりの時間には間に合うかな。
「うん、たぶんね」
おやすみなさい。
「おやすみなさい。」
肝の据わったむむちゃんに、感服。
古語辞典をひこうとするむむちゃんにも、
宿題の遅れに動じないむむちゃんにも。
翌朝、昨日同様に少しだけ早く起きてきてノートに向かうむむちゃん。
いつも通りに起きてきたぷうちゃんが、朝食前に涙をこぼして、訴えた。
「・・・ママ、音読するのわすれちゃった・・・。ヒック」
大丈夫だよ、今読めるよ。教科書もっておいで、。
涙をふきふき「うん・・・」
おねえちゃんに気をとられて、昨日は我が身の宿題を忘れていたよう。
むむちゃんは、音読なんて朝でもできるから、
夜やらなくってもいいや、が常になりつつある。
むむちゃんという人のこのおおらかさが、
どうできあがってきたのかさっぱりわからないのだけれど、
「知りたいことを知りたい」を優先でき、
そうでもないことはそうでもないなりにとらわれずに居られるその姿に、
学ぶことは多いわ。
内心では、ものすごく必死だった、のかどうか、すべて終えられたころに聞いてみよう。