直木賞候補作になっていた作品。
『暗幕のゲルニカ』や『蜜蜂と遠雷』のおされて、影になってしまっていたけれど。
杉原千畝のような人が他にも居たに違いない、と何ヶ月か前に思ったそれを、実際に描いてくれた作品だった。
それこそ数ヶ月前の杉原千畝を一心に読んでいた頃と、デジャヴを喚起するような描写にはじまる。
もしかして千畝をモデルに描いているのか?
と、思ったところに、千畝本人を登場させ、違うお話であることを思い出させてくれた。
時は、第二次世界大戦直前。
ポーランドはワルシャワの日本大使館に書記生として駐在する。
穏やかで美しい日々が、戦争が始まる前にはあったのだということを教えてくれる。
その美しい日々が、次第次第に壊れて行き、再生不可能なまでに粉々に散っていくプロセスを丁寧に描いてくれて、読みながら痛んで痛んで仕方なかった。
互いを知り、友情を交わし、信頼を交わした人たちの身に降りかかる、人を人でなくしてしまうような戦い。
ワルシャワに、ゲットーが築かれたこと、そこから強制収容所に送られたこと、ワルシャワ市民たちが、ただただ生きるために、家族を仲間を生かすために、蜂起し、見捨てられ、惨殺されたこと。そこに仲間の一人として、共に立つ日本人が居たこと。
ひとりひとりの生き様と共に、叩き込まれるように、読んだ。
それらの歴史が、実際にあったということを、すべて二度と忘れない。
忘れるものか。
ポーランドが身近な国になった。