本屋大賞の候補作には必ず、これ系の作品がひとつ入る。
たとえば、川口元気の『億男』なんかが、こんな感じ。
これ系、こんな感じ、とは、
もうこれ大好き!絶対好き!!これはいい!絶対いい!!というような強烈な支持は得られないけれど、
個性の強い味の中で、こういうのがあってもいいよね、と言いたくなる薄口な。
書店員の投票とは言え、なにかバランスを考えて、候補作を構成しているのかな、などと思ったりもする。
ある条件のもと、ある限定の中で、時間を遡ることができる。
その時には、気付かなかったことに、過ぎた後の今、戻ってみると見えるものがある。
見えたことによって、今が違って映りはじめる。
そんな小説。
下手に、過去を動かすことをしない、ただ見るだけ、という設定は良かったと思う。
もう少しそれぞれの設定をすっきりわかりやすく書く事ができれば、もう少し味わいぶかい小説になるのにな。
過去は、変えられない。
は、ウソだ。
過去は、今が決めている。
今が変われば、過去も違って見えてくるものだ。
私は、未来よりも、過去よりも、「今」がいちばん好きで、いちばん大事にしたいと思って生きている。
遡れる時間を与えられても、そこに戻りたいと思える日は一日も思い浮かばない。
しいてひねり出すならば、むむちゃんを、ぷうちゃんを、はじめてこの腕に抱いた日、くらいだ。
そこを懐かしむくらいなら、今日むむちゃんを抱きしめ、今日ぷうちゃんを抱きしめたい。