むむちゃんの散歩道

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佐々涼子『紙つなげ』

ちょっと前に読んだ本。

私たちが手に取る本の「紙」は、
日本製紙の石巻工場(岩手県)で作られているそうだ。
いわゆる出版で流通している本の4割を占めているそうだ。

たとえば、コミック『ワンピース』
たとえば、『コロコロコミック』
たとえば、『永遠の0』

海外の雑誌、ニューヨークタイムスの、ペラッペラの薄い紙も、
石巻工場で作られたものを、卸しているそうだ。

2011年3月11日の東日本大震災で、この石巻工場も大きな打撃を受けた。

紙が、作られない。

これを再起しなければ、日本の出版界すら現状を存続するのが危うい。
それだけ大きくシェアを占めている紙作り工場が、岩手県石巻にある。

その事実は、この本が出なかったなら、知ることは無かっただろう。


震災の打撃から立て直し、紙を作り出すことのできる状態まで漕ぎ着けた石巻工場を描いたルポ。

書いたのは佐々涼子。
彼女の名前は第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した『エンジェル・フライト』で知った。
東日本大震災の数年前に映画化されアカデミー賞外国語映画賞やモントリオール映画祭グランプリを受賞した『おくりびと』とセットで読んだ。

死者を整えて送り出す準備をする「納棺師」を描いた『おくりびと』に対し
国外で亡くなった人を国内に搬送する「国際霊柩送還師」を『エンジェル・フライト』。
どちらも死者と生者をつなぐあまり世に知られていない仕事を知らせる役割を果たした作品だ。


『紙つなげ』を読みながら、私(たち)のこんなにも身近なモノを、作り出している人たちの姿を知らなかったこと、知らずに一生を終えてしまいそうだったこと、たまたま知ることになったけれど、それに類する「知らない」に囲まれて、今、生きていることを痛感した。
この痛感が、生かされている感覚だと身をもって思う。


今年度から、『小説幻冬』を購読することになった。
『紙つなげ』を読んでいたから、表紙の下の方に小さく記されている文字を見逃さなかった。

「この号の本文用紙は、熊本県にある株式会社日本製紙八代工場で生産されたものです」

2016年4月に被災した熊本県。
それを励まし、生かそうとする営みが、ここにもある。


私たちの生活の中には、気づかぬところにこんな支えたり励ましたりイキな取り計らいをしたり、の結果として手に渡っているものが満ちている。


農業とか漁業みたいな直接的な生産物のわかりやすさから離れているからこそ、
経済活動は、お金の勘定のみで成り立っているわけではないっていうことを、ひしと知る。


by shiho_kato | 2017-05-10 15:19 | 読書ノート | Comments(0)