むむちゃんの散歩道

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伊吹有喜『なでしこ物語』『地の星 なでしこ物語』

遠州(いまの静岡県)の過疎の進む山里にある名家遠藤家のお屋敷「常夏荘」に住まう、子どもたちのお話。
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語り手は常夏荘の主で未亡人の「照子」なのだけれど、
体が弱く静養のために常夏荘に訪れている遠藤家の御曹司「立海」と、
身寄りを失い遠藤家の山を管理する祖父に引き取られた「耀子」の、
ふたりの子どもたちを丁寧に丁寧に描いている。

不遇な環境で育ってきた耀子が、常夏荘の大人たちに見守られて、ゆっくりゆっくりと自らの持っている力を取り戻していくお話。

常夏荘に住まい、常夏荘に働く大人たちが、手を出しすぎずに、安全で安心な場所をそっと作りながら、耀子がみずから獲得していくのを待てる。

おとなと、子どもの距離感が良い。
燿子の、急がず、ゆっくりじっくりと見つけていくところが良い。
ゆっくりじっくりの耀子の変化に、おとなたちも少しずつ少しずつ変わっていくのが良い。

口数の少ない祖父は、「赤毛のアン」のマシュウへと変化していく。
使用人との間に線を引いていた照子が、共に耀子の誕生会を祝おうとする。

『なでしこ物語』は静かで、悲しさと寂しさも苦しさもあるけれど、あたたかで、救いのある子どもたちの物語だった。


2012年に書かれた『なでしこ物語』から、5年を経て、先月発刊された『地の星』は、
大人になり、常夏荘の主になった耀子の物語。

過疎の山里で、女性たちが働くこと、その地を大切にする思いと、思うだけにとどまらず形にしていく。じれったいほど控えめに慎重に、でも着実に実現していく。

物語の進むテンポは、『なでしこ物語』から少しも変わらない。5年間は空白だったのではなくて、あたためてきた時間だったのだなー。と、思って調べたら、2013年から雑誌で細々と連載を続けてきて、このたび

衰退するふるさとを、なんとかできないだろうか。
その地で採れるもの、育ててきたもの、それに手を加える技術、死蔵になりがちな個々の人たちの力を、集めてつないで、生き生きとしたものへと転換させ、その土地で必要とされる支えやニーズに流し込んでいく。

いま、日本のどこかしこでも、自らの地域を自らの手で活かす試みがなされている。

地産地消とか、女たちの手とか、地域の物産品とか、それらは、こうした物語を背景にしているんだな。

稲穂は美しく、どこか立ち枯れた空気を漂わせる実家の町にも、こんな物語があるのかな。
これからの物語が、既にはじまっているのならいいな。



『なでしこ物語』の耀子から、『地の星』の耀子へは14年の歳月が流れている。
来年2018年に、その14年を埋める『天の花』も発刊されるそうだ。





by shiho_kato | 2017-10-23 11:54 | 読書ノート