むむちゃんの散歩道

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唯川恵『淳子のてっぺん』

田名部淳子さんに、生前いちどお会いしたことがある。

すごい偉業を成し遂げた方なのに、静かにそっと立っていた。

人を圧することの無いように、最高峰の山を登る圧倒的なオーラもエネルギーも、
そっと仕舞いこまれていた。

最近、年に何度か登山をする。
無言で、ほんとうにこの先頂上に行き着けるのだろうか、という不安を押しやりながら登った山は750m程度の山だったりする。

山に登るって、大変なことなんだな。
2,000m、3,000mの山に、泊りがけで登るってどんなだろう。
恐ろしさと、不安と、退屈と、身を助けるのはこの身しかない心細さと。

登るまでは、42km走るほうが大変だと思っていた。
比じゃなかった。
走るのは右足と左足を交互に出せばいいだけだ。
給水や給食は出してもらえるし、仮に自分で背負っても大した量ではない。
足を痛めて走れなくなったとしても、ちょっとなんとかすればすぐに助けに来てもらえる。

山で、助けを得ることは、ほんとうに大変だ。
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『淳子のてっぺん』を、
ぞくぞくしながら読んだ。

どんな環境の中でも安定して健康な心と健康な体を保ち続けることができること。
どんな場面でも次の一歩次の一歩を諦めずに踏み出すことができること。

静かな強さ。
それが山人だ。


唯川恵がこんなふうな小説を書くと思わなかった。
とても良かった。
もっと、こうやって静かに生き抜いた女性たちを取材した小説を書けばいいのに。
架空のありそうな恋愛小説よりも、強く惹きつける力があるのだから。


by shiho_kato | 2017-11-13 16:41 | 読書ノート