夜11時は、疲れていたり、酔っ払っていたり、なんとなくどんよりする中を
ドタドタと走ってくるおじさんがいた
「あの、これ!」自動改札越しに両手で差し出したのはカフェラテ。
振り向いた若い女の子が、「あ、ありがとうございます」と。
おじさんはよくみると、コンビニの制服を着ていた。
買って持ち帰り忘れた商品を、お店からダッシュで届けてくれた。
ストップモーションのように目の前に繰り広げられた出来事。
汗だくで、ほっとしたおじさんの顔と、
はっとして次の瞬間にふっとほころんだ女の子と、
そのおこぼれにあずかるように、心の中がぽっとあたたかくなった。
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帰りがけに友人に聞いたお話。
地下鉄の階段をのぼっていると、
よく見知った顔の女性に「どうも」と、挨拶をされた
よくよく知っている人だけど、誰だっけ・・・名前が思い出せない・・・
どこで会っている人だっけ・・・
あ、そうだ、毎朝テイクアウトのコーヒーをかうのに寄っている
ドトールの店員さん!
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たった一つのカフェラテのために猛ダッシュしてしまう店員さん
制服を脱いで職場を離れて、なお常連さんに挨拶してしまう店員さん
場所の枠組みをはみ出して、
役割の枠をはみ出して、
ふっと、もれ出てしまう
思いがけないあたたかさがある
フォルダにきれいに仕分けされて
あふれることも、まぎれることも、はみ出すこともない、
整然とした中では生まれない、あたたかさ
予期できないだけに、構えず無防備な懐に
思いがけず深く、飛び込んでくる
そんな、日々の奇跡に、私は生かされている