暑さのせいなのか、お年頃なのか、
むむちゃんがツンツンケンケン、怒りっぽくぷうちゃんにあたる。
仲良かったらり、ツンケンしたり、忙しい。
とげとげの多い、乱暴な口調があい続くので、思わず
「むむちゃん、なんかツンケンしてて、怒りっぽい感じ。なんかやな感じだなぁ。」
と、声をかける。
「うるさいなぁ、ママだって怒りっぽいくせに(フン)」
「今日は、朝しか怒ってませんよ~だ、それも朝ごはんおそくて遅刻しそうだったからでしょ」
「そのまえは、ママずっとおこりんぼだった!」
「そうかなぁ、いまのむむもおこりんぼだよ」
「ママのほうが、おこりんぼ!」
「むむのほうが、おこりんぼ」
「ママのほうだってば~!」
「むむのほうだってば」
むむちゃんが爆発。
顔を真っ赤にして、くしゃくしゃにして、目を吊り上げて
ボロボロ泣きながら
「ママなんか、ママなんか、おこ、おこ、おこりんぼで、
やさしいのなんか、まだぜんぜんすくなくて」
あ、はっとして、胸をつく。
そういうことか。
「ママがおこりんぼだったんだから、むむがおこりんぼだって、しょうがない」
悲鳴のようにつづく。
たちすくむ。
そういうことか。
「ママが、むむのこと泣かした~っ、はじめて泣かした~」
じだんだを踏むようにつづく。
むむちゃんのからだのうちからあふれる力が
制御できずにからだの外にうわぁ~っと出してしまいたくなるような、
衝動の感じ。
私の内にも記憶されている体内衝動が呼び起こされる。
あぁ、わかるよ、むむちゃん、わかる。すごいわかる。
ふっと息をのんで、
むむちゃんをぎゅう~っと抱きしめる。
「むむちゃん、ごめんね。ほんとにごめんね」
ゆっくり。
「ママやさしくなれたの最近だもんね、
まだまだ怒りっぽかった時間のほうがながいもんね。」
くりかえす。
「ごめんね、むむちゃん。ほんとにごめんね」
むむちゃんがもがいて顔を抜けださせる。
「むむちゃん、ママやさしくなるね。
むむちゃん、ママおもしろくなるね。」
むむちゃんが笑う。
おもしろいはいいよ。
変なママになったらやだから。
泣き笑いのむむちゃんを、
もいちどぎゅうぅ~っと、抱きしめる。
「ママ、いたいってば、歯があたる~。」
むむちゃんが、笑う。
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ひるみそうだった。
痛いところをまっすぐ突かれたから。
否定して、頭から押さえつけそうだった。
そうしなくて、ほんとうによかった。
ギリギリセーフ。
いまで、よかった。
むむちゃんが衝動にまかせて
まっすぐに、つたえてくれる、いまで、よかった。
ギリギリセーフ。
*******
泣いているむむちゃんの激しい言葉のさなかに、
ぷうちゃんが必死で言った。
「ママがわるくて~、むむがあってる~」
そうです。そのとおり。
ママがわるい。
直前まで、キツイ言葉をあびせられていたのに、
ぷうちゃんはちゃんと正しいジャッジができた。
そう、むむちゃんが、あってる。
ぷうちゃん、あなたのスジの通し方、
とってもとっても、すばらしい。
泣き終えたあと、むむちゃんが
とがった声で「ぷうちゃん」と呼ぶ。
背中で警戒する。
「ぷうちゃん、さっきさ、むむのみかたしてくれてありがと」
むむちゃんにも、聞こえていたんだ。
ありがと、言えた。むむちゃん、えらい。
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むむちゃんの衝動の前にさらされて、
よくよくわかったことがある。
子どもは親を選べない。
だけれど、選べないから
仕方なく、そばにいるのではないということ。
むむちゃんは、この間、
私を支えようとして、
私の力になろうとして、
私の体の不調、心の不調、よくなることを懸命に祈っていたんだ。
そうして、たくさんのことを胸にしまって
抱えて、そばに居続けてくれたんだ。
ただ、生まれてしまった子どもだから、では、なく。
そばについていてくれたんだ。
親になりきれない親でごめんね。
そばにいてくれて、ありがとう。
私は子どもたちを産み、
産んだ命に生かされている。
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涙の騒動がひと段落した後、
ぷうちゃんが、おおきなこえで
「3にんで、ぎゅうしよう~っ」と言った。
3にんで、円陣を組むように、
ぎゅう~っと抱き合う。
むむちゃんが、筆で書いた
「なかま」の文字が、扇風機の風に揺れる。