うまい!
『わたし、定時で・・・』も、やるなぁと思ったけれど、
『対岸の家事』は、それに輪をかけて、うまい!
絶滅危惧種「専業主婦」を主軸に据えた作品だけれど、
描いているのは労働構造、子育て環境の劣悪さ。
現在、管理職をやっている人は、どっちも読むべきだ。
これから管理職にならんとする人は、どっちも読むべきだ。
労働法の勉強なんて、後からでもできる。
目の前の社員たちを理解する気があるなら、
雪崩をうって減りゆく労働者人口に歯止めをかけたい人たちこそ、読まなくちゃならない。
結婚する人は、『対岸の家事』は、必読書だ。
子どもが生まれんとする夫婦は、生まれる前に完読しておいたほうがいい。
子どもが生まれて険悪化している夫婦は、今すぐ読んだ方がいい。
いま、苦しい子育てをしている人は、もう今日にでも、読んだ方がいい。
私は、鍵カッコつきで「専業主婦蔑視」をしている自覚がある。
その「蔑視」をすべて、丁寧に丁寧に、ときほぐしてくれた。
もう蔑視もしなくて済む、私(働く母)とあなた(専業主婦)はここで違って、ここで同じだ、と、
ハッキリさせてくれたから、モヤっとした感情に振り回されることは、もう無い。
そして、読み終えて、ようやく「専業主婦もいいもんだな」「私にもそういう選択肢があったかもしれないな」と思えるようになった。
つまり、専業主婦という在り方が、私自身のアイデンティティを侵すものでは無くなった、ということだ。
できれば、続編を期待したい。
できれば、ジェンダー云々とか、男女平等とか、女性の社会進出とか、
声高に、型どおりに、行われている主張のひとっつひとっつを、
こんがらがった糸を解きほぐすように、ひとっつひとっつ作品にしていって欲しい。
加納朋子も上手だけれど、制度をえぐれない。
朱野帰子は、ひとりひとりを丁寧に描きながら、制度をえぐる力がある。
この勢いで、よろしく頼みたい。